植岡喜晴作品『月へ行く』に関して……にいやなおゆき

*「ゆうばりフォービデンゾーン アニメスペシャル」のページができました。
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まいど、一週間のご無沙汰です。
(と言いつつ、昨日フライングしてアップした記事を、僕の担当の今日に移動しました)
さて今日は植岡喜晴監督の『月へ行く』をにいやが少々ご案内。
この作品は今から10年くらい前、2001年の作品です。
僕が映画美学校に関わったのは、この前年。2000年製作の井川耕一郎監督の『寝耳に水』(二期生の実習作品)からです。
『寝耳』では、僕は劇中画や特撮やアニメーションを担当したのでした。
映画美学校はまだ始まったばかり、みんな本当に若かったですね。僕は36歳だったか……。
で、そこで知り合ったのが植岡さん。
ちょっと大阪のプラネットさんのサイトから、植岡さんの紹介記事を抜粋させてもらいましょう。


http://www.alpha-net.ne.jp/users2/planet1/cine2001/ueoka.html
1954年神戸生まれ
学生時代から関西圏での8ミリ自主製作映画の中心人物の一人として1970年代末期から注目されるようになった。『眠れる森の吸血鬼』がその作品で8mm作品ながら60分長編劇映画であり、東京では「ぴあフィルムフェスティバル」が開催される前であり、関西で長編劇映画で優れた作品を作り始めた最初の映画作家のひとりである。(中略)1984年には8mmで2時間を越える大作『夢で逢いましょう』を完成させた。この作品は関西のサブカルチャー系のマイナー・メジャーな才能を網羅し漫画家ひさうちみちおを主演に当時「劇団そとばこまち」を主宰していたつみつくろう(辰巳琢朗)をはじめ上海太郎らも出演する植岡映画の世界を完成させた。その後上京し、アイドルつみきみほの主演デビュー作『精霊のささやき』で一般映画デビューする。その間も 8mmでの製作も続け、ディレクターズ・カンパニーの末期にはテレビ作品を三本監督。東京ではひさうちに代わって別特集で上映する『野球刑事ジャイガー』にも主演する加藤賢崇が植岡映画の顔となった。(以下略)

とまあ、こういう人です。
やりたい事は何が何でもやり通す。厭な事は絶対できない。映画を作るためなら無理も道理も関係無し。
美学校で出会った時、自由人というのはこの人のためにある言葉ではないかと、僕は植岡さんのキャラにおおいに感銘を受けたのでした。

で、昨年『傑力珍怪短編集』で上映した我々の『孤独の円盤』を見てもらったら、突然に「にいやさん、『月へ行く』でUFO操演やってくれ!」との事。植岡さんの作品なら面白くなりそうなんで二つ返事で引き受けて、僕は発泡スチロールで可愛らしいUFOを数個自作しました。これがそのUFO。


持ってるのは二期生の井原田さん。もう結婚されてお名前も変わり、可愛いお子さんがおられます。いや〜、時間のたつのは早いですね。
作ったUFOは6個くらいだったか……。そのうち2個には電飾を仕込みました。本当は全部光らせたかったけど、予算不足で。
これがその光るバージョン。持ってるのは主演の遠山さん。

残念ながら、ストロボ焚いたんで光が見えないですけど。
彼女は美学校で『集い』『亀の歯』を監督。その後、『巣』『アカイヒト』などを製作し、東京芸大で『よるのくちぶえ』を監督されています。

『月へ行く』は、不思議な映画です。遠山さん演じる女子高生が、担任の先生(戸田昌宏さん)に犯され、なぜか宇宙人の子供を身ごもったと言い始めるのです。
そのうちに豆腐屋のお父さん(加藤賢崇さん)がおかしくなり始め、幽霊は出るわ大地震は起こるわ、UFOは飛び回るわ、なにがなんだか……。
でも、見終わったときなぜか不思議な寂しさが漂うリリカルな作品なのです。


これはUFOの撮影で行った九十九里浜です。
先乗りしたスタッフが寒風の中震えていました。なんたって強風の吹く2月ですからね。凍え死ぬかと思いました。
右から二番目の、白い手ぬぐいを被ってるのが『人喰山』音声の光地君。真ん中は『人喰山』英語字幕を手伝ってくれた北岡さん。

九十九里浜では、他にも空き家を借りての撮影も行われており、スケジュールはビッシリ、予算はスカスカ、大変な強行軍でした。本当は植岡さん、夕日の中で海岸を飛び回るUFOが撮りたかったそうで。
にいや「でも植岡さん、九十九里浜で夕日って撮れますかね?」
植岡 「行ってみないと分からない!」
にいや「いや、行かなくても分かると思いますけど……」
結局、夕方の海岸でUFO部分の撮影が始まった頃には、ほぼ日は沈み(もちろん海に沈むわけはなく)真っ暗状態。「映るのかなあ?」と心配しながら、にいやとスタッフ数人が円盤をひらひらと……。
と言っても『月へ行く』の現場は予算不足で操演の釣り竿さえ買えないのです。にいや(右端、若い!)は主演のアダムスキー型を釣り竿で飛ばしてますが、他のみなさんは海岸の流木(竹竿とか)を拾って操演してますね。園芸用の棒を継ぎ合わせて竿にしてる人もいました。

なんでここまで予算が無いかと言うと、それはもちろん植岡さんの夢が巨大だからです。
低予算の自主映画なのに、特撮はやりたい、スクリーンプロセスはやりたい、セットは凝りたい、散々わがまま言って、もの凄い事になってしまったのです。
これは特撮シーンの撮影ですね。冒頭、主人公の頭上にやって来るUFOです。これにピンクの光線を合成しました。

ここのUFOと特撮担当はにいやではなく、『月猫に蜜の弾丸』(ユーロスペース「ホラー番長」)という映画を撮った湊(港は間違いのはず)博之くん(左端)。
もちろん『月へ行く』は16ミリ作品ですから、フィルムで撮影してるんですよ。カメラの前にかざしてる透明な板は、合成のための目盛り(升目)が描いてあるのです。これで光線を入れる位置を確認してるわけですね。
合成と言ってもお金がないので、いわゆる「生合成」です。一旦撮影したフィルムを巻き戻して、そこに光線をもう一度写し込むわけです。
……とまあ、『月へ行く』は様々な手作り特撮がちりばめられた低予算超大作映画なのです。
みなさん、2月12日には是非アップリンクにおいで下さい。
当日は植岡さんもゲスト出演の予定です……あくまで予定ですけど。

という事で、おまけに生合成のお手本『スペクトルマン』のOP。
右上の回転するUFOが生合成です。これは本当に上手く行ってますね。