『幸福』DVD発売!

みなさん、ついにこの日がやってまいりました!
なんと、水谷豊主演。市川崑監督の1981年作品『幸福』が11/4(水)DVD発売される事になったのです!

この作品、エド・マクベインの「87分署シリーズ」の一編『クレアが死んでいる』を原作とした刑事物なんですが、公開から28年間、一切ソフト化されていません。テレビで短縮版が一度だけ放映されたそうですが、ほとんど知られる事の無い「市川崑、幻の傑作」でした。
実は僕も公開当時「観たいなあ〜」と思いながら見逃し、数年前にやっとこさフィルムセンターの上映でお目にかかれたのです。なんだか二十数年前にタイムスリップしたような、奇妙な感動を味わいました。

先に「市川崑、幻の傑作」なんて書きましたが、いや、本当は「傑作」なんて大仰な言葉は似合わない、「愛すべき小品」といった感じの作品なのです。
大げさな表現も、派手な見せ場も無く、丁寧に刑事達の生活を描く。事件の背後にある彼らの「生活」が徐々にあぶり出されていく。刑事と被害者と犯人、一見まったく別の立場に見えるこの三者が、実は同じ「生活者だ」というあたりまえの事に気づかされる。『幸福』はそんな映画です。

公開時、ソフト化を視野に入れてなかったため、原作者側との再契約が必要だったとか。市川崑がこだわった銀残しの(ソフトでの)再現が難しかったとか。今までソフト化されてなかった理由は色々あるようです。

80年代といえば、僕にとっては青春時代……のはずなんですが、良い思い出なんて全然ありません。とにかく家に籠って絵ばかり描いてました。それもなかなか形にならず、描いては捨て描いては捨ての毎日で。
だけど今になって、80年代の邦画は不思議な魅力を持って蘇っています。近所に古いレンタル屋があった頃は、面白くもない80年代のアイドル映画なんかを適当に借りて来て眺めてました。
凄い顔の役者さんも居て、無茶苦茶な事も平気でやってた、まだまだ映画が熱かった70年代。CGの発達も含めて、良くも悪くもなめらかで、商品として安定してしまった90年代。間に挟まれた80年代の映画ってなんだか中途半端です。
風俗も中途半端に古くさくてダサイ。昔風の暑苦しいドラマと、今風の自分探し内省ドラマが噛み合ないまま共存してる。
僕にとってはエアポケットのような、無為な時間が過ぎて行った時代。ポカッと記憶に穴が開いてるような、不思議な時代です。
最近は80年代の邦画を置いてるレンタル屋も無くなって、なかなかそういう雰囲気を味わう事もなくなってしまいました。

『幸福』に話を戻しましょう。
この作品は確かに80年代の邦画なんですけど、上に書いたような中途半端な作品というわけではありません。むしろ最初から時代とは関係無く生まれて来たような、独特の時間を持った作品です。エアポケットのような時代(80年代)の中で、そのなかにポッカリ浮いた飛行機とでも言いましょうか。
時代とともに歩む作品、その時代にハマって大ヒットする作品ではなく、常にここ(現在)に存在し、独自の時間を生きる作品。しかし、作られた80年代のエアポケットの臭いが濃厚に漂う、あの時代の作品。僕にとって『幸福』は様々な時間の記憶が入れ子状になって蘇る、不思議な作品なのです。
この映画を若い人たちはどう観るんでしょう。
11/4(水)には、是非『幸福』をご覧下さい。


*『幸福』当時、水谷豊さんと井上陽水さんが対談しています。
-水谷豊VS井上陽水-__1

*「銀残し」に関してはこちら。
銀残し - Wikipedia

*写真は「チケットぴあ」さんからお借りしました。
http://news.pia.jp/pia/news_image.do?newsCd=200909180012&imageCd=0